2013年12月21日土曜日

2013年度第5回定例会開催記録

20131221日(土)に2013年度第5回定例会が開催されました。


・日時:20131221日(土)13時半~18時半
・場所:お茶の水女子大学文教育学部1号館3304号室

■報告1:李小妹さん(お茶の水女子大学 大学院博士後期課程)
タイトル:「中国における少数民族の身体とジェンダー」
■報告2:小川真理子さん(お茶の水女子大学リーダーシップ養成教育研究センター)
タイトル:「民間女性団体による暴力被害女性への支援の現状と行政との「連携」


総評:
李さんは中国におけるテーマパークと都市空間における少数民族の実践、小川さんは日本におけるシェルター活動の現状に関して、オリジナルの調査結果から論じた。小川さんの報告に関しては、様々な意味合いで調査方法やその公開に困難が伴う研究であるため、フィールドワークを行う研究者に共通の調査倫理に関して、参加者からコメントが多くあがった。李さんの報告は人文地理の理論に依拠するものであったが、本定例会では聞くことが少ない空間論に関して、参加者から熱心な質問が向けられた。この議論から、シェルターを空間論からとらえる研究の可能性や、フェミニズムが女性の空間を求める運動を含む側面をもつことにまで話が展開した。フィールド、テーマ共に異なる2つの報告であったが、会の終盤になると、ジェンダー、マスキュリニティ、ナショナリズムなど共通する切り口から活発な議論がなされた。



---下記、報告の要約になります。

□李小妹さん(お茶の水女子大学 大学院博士後期課程ジェンダー学際研究専攻)
報告タイトル:『中国における少数民族の身体とジェンダー』
李さんは、中国広東省深圳市にあるテーマパークを人文地理学の領域で研究を続けてきました。

今回の報告では、はじめに、中国における深圳という都市空間を、中国のモダニティの独自性の一例として位置づけ、同地におけるテーマパークの展開を中国の国家像、国民像、モダニティを表象する空間として説明した。さらに、テーマパークの一つである「深圳中国民俗文化村」における少数民族の展示と表象代表であるワ族をとりあげた。李さんは、深圳における企業での勤務経験やその後のフィールドワークによるデータから、ワ族の「深圳中国民俗文化村」でのステージパフォーマンスや都市空間における実践のありようをジェンダー/セクシュアリティの視点から分析する試論を提示した。



□小川真理子さん(お茶の水女子大学リーダーシップ養成教育研究センター)
『民間女性団体による暴力被害女性への支援の現状と行政との「連携」』
小川さんは、20129月に提出された日本の民間シェルターの役割とDV被害者支援に関する博士論文の内容を基にして報告して下さいました。


「シェルター」という言葉は、一般的なものになりつつあるが、女性達が設立した民間シェルターに関しては、利用者や支援者の安全が一義的な命題であるので、その活動の内実が研究対象になる事は多くなかった。小川さんは博士論文において、民間シェルターへの質問紙調査や民間・行政へのインタビュー調査を通して民間シェルターの支援活動、DV被害者支援の現状と課題を明らかにした。本報告では、特に、民間シェルターと行政との「連携」に関して、調査による独自のデータから検討し今後の課題を論じた。調査結果では、「連携」に齟齬をもたらす一つの要因は、DV法上の「連携」の位置づけが明確でない事が看取された。現状では体制が未確立のままDV対応が進められてきた事に問題がある。被害者にとっては、公的支援も民間の支援も不可欠なものである。両者の支援は重なる点も多いが、民間による支援の独自性を考慮すると、民間は、その機動性や柔軟性を活かし、行政と「連携」しながらDV被害者支援を行なうのが望ましい形であると結論付けた。

2013年11月16日土曜日

2013年度第4回定例会記録(2013年11月16日開催)

20131116日(土)に2013年度第4回定例会が開催されました。


・日時:20131116日(土)13時半~18時半
・場所:お茶の水女子大学文教育学部1号館3304号室

報告1:中村雪子(お茶の水女子大学 大学院博士後期課程)
タイトル:「インドにおける開発プログラムとしての「女性酪農協同組合」試論:ガバナンスとエンパワメントの視点から」
報告2:雑賀葉子(お茶の水女子大学 大学院博士後期課程)
タイトル:「ポストコンフリクトの状況を考慮したジェンダー・クオータ制の政治代表に対する影響分析について」


本定例会では、「ガバナンスとジェンダー」を共通テーマに、先行研究のレビューを中心とした2つの報告がなされた。「ガバナンス」が共通項ではあったが、フィールド、対象、分析の方法論と異なる点の多い報告となった。同時に、異なる点が多かったことから、「ガバナンスとジェンダー」研究の射程の広がりが感じられる定例会となったともいえる。



---下記、報告の要約になります。

中村雪子さん(お茶の水女子大学 大学院博士後期課程)
報告タイトル:『インドにおける開発プログラムとしての「女性酪農協同組合」試論:ガバナンスとエンパワメントの視点から』
報告者は、長年インド・ラージャスターン州で展開する女性酪農協同組合を対象にフィールドワークを続けてきた。近年では、特に村落/集落から州レベルにいたる酪農協同組合組織全体におけるガバナンスへの女性の参加状況を、法体制、経済体制、さらにグローバルかつ国家の開発政策の変化などから分析する研究を進めている。本報告では、Aradhana SharmaParadoxes of EmpowermentDevelopment, Gender and Governance in Neoliberal Indiaを先行研究として取り上げた。Global Assemblageという用語をてがかりに、開発とジェンダーの領域における「ガバナンス」と「エンパワメント」との関係性を批判的に分析するための方法を検討した。



雑賀葉子さん(お茶の水女子大学 大学院博士後期課程)
報告タイトル:『ポストコンフリクトの状況を考慮したジェンダーク・オータ制の政治代表に対する影響分析について』
報告者は東ティモールの国政選挙におけるジェンダー・クオータ制についての研究を進めている。本報告会においては、Susan Franceschet, Mona Lena Krook and Jennifer M. Piscopo(The Impact of Gender Quotasを先行研究として報告した。本書では、クオータ制導入によって政治的代表、すなわち記述的代表、実質的代表、象徴的代表がどのように形成されたかを分析し、クオータ制賛成派が主張する目的を達成しているのか、あるいは反対派の主張する結果となっているのかを検証している。事例としてフランス、アルゼンチン、ウガンダ、モロッコ、英国、ブラジル、南アフリカ、アフガニスタン、ベルギー、メキシコ、ルワンダ、インドの12か国を取り上げる。クオータ制の有効性が実証的体系的に検証されていないことに対して、本書は多様な国を事例に取り上げ、そのインパクトを比較分析しており、意義は大きい。しかし、事例には90年代に紛争を終結し政治的民主化の経験の浅い国々も含まれている。政治的民主化の経験を分析枠組みに含める必要性や含める内容についての考察を報告した。